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浦和地方裁判所 昭和45年(行ウ)6号 判決 1977年3月30日

原告 田中康夫

被告 熊谷市長

訴訟代理人 筧康生 六馬二郎 信田庚 市川博 ほか三名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  本件換地処分がなされるに至る経緯

原告が本件従前の土地の所有者であること、被告が本件土地区画整理事業の施行者であること、本件土地区画整理事業第二工区は、熊谷市のほぼ中心地に位置し、国鉄高崎線熊谷駅の周辺で、東は県道熊谷冑山線(旧中仙道)から国鉄高崎線に沿い、西は鎌倉町通りに至る東西に帯状をなした地区で、施行区内の町名は、大字熊谷字い通、字ろ通、字は通、字筑波町新地、字鎌倉町二丁目、字鎌倉町三丁目の各一部であり、施行地区総面積は一万二六五五ヘクタールであつて、本件従前の土地は第二工区の第五五の二街廓に属すること、被告は原告に対して、昭和三七年五月一〇日原仮換地指定処分をし、昭和四二年一月二〇日右の原仮換地指定処分を取り消すと同時に本件仮換地指定処分をし、更に昭和四八年六月二二日本件換地処分をしたこと、本件換地の形状が別紙図面(二)の如く公道に二メートル接する旗竿状のものであることはいずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠省略>を総合すると、

(1)  被告は、第二工区について、本件土地区画整理事業施行の準備として昭和三四年頃から土地建物の現形測量、地積測量を行い、昭和三六年頃仮換地の計画を作成し、対象地区内の土地所有者等に対する説明会を熊谷市役所前の陳列館及び本件従前の土地付近の民家において行つたこと

(2)  被告は昭和三七年五月一〇日原告に対して本件従前の土地と全く同一の区画地積を仮換地とする原仮換地指定処分をしたこと、被告は、本件従前の土地が袋地でありしかも原告が南側隣接地につき賃借権等の権利の申告をしなかつたことから、本件従前の土地と原仮換地とが照応すると考えて原仮換地指定処分をしたこと、原仮換地指定処分後数力月して、原告は熊谷市役所に赴き前記説明会に出席できなかつたので仮換地の指定につき説明を求めたので、担当の職員が本件従前の土地と同じ土地を仮換地に指定した旨説明すると、原告は特に異議を述べないで帰つたこと

(3)  本件従前の土地の南側隣接地は一二五番一の土地の一部であつたところ、右の一二五番一の土地は原仮換地指定処分がなされた昭和三七年当時は松本真平の所有であつたが、昭和三九年二月一日富田政雄が松本真平から右の南側隣接地を含む一二五番一の一部の土地(分筆されて一二五番一八になる。)を買い受けその所有者になつたこと、原告は従来から南側隣接地をその南側にある私道へ出るために通行していたが、原告が右の南側隣接地を通行することにつき原告と富田との間に紛争が生じたこと、そこで、原告はまず浦和地方法務局熊谷支局の人権擁護委員会に提訴し、同委員会において富田と話し合つたところ、富田が原告と通行問題について相談に応ずるということで話がまとまつたが、その日に原告が富田の家に行つて相談したところ、富田は南側隣接地を原告に売つたり貸したりすることを拒絶したため結局話がまとまらなかつたこと、それで、原告は熊谷簡易裁判所に富田を相手方として工作物収去等の調停の申立てをしたこと、その調停の席上、被告の方から、原告及び富田が承諾するならば本件従前の土地につき南側の私道に面する長方形の土地を仮換地と指定するように変更する旨の調停案が提出されたが、結局富田及び原告が応じなかつたこと

(4)  その後、原告から、富田に通行を妨害されて困るから仮換地を公道に接するように原仮換地指定処分を変更されたい旨の陳情があつたため、被告は、原告と富田の右紛争の経緯並びに建築基準法、埼玉県建築基準法施行条例によれば建物の敷地が路地状部分のみによつて道路に接する場合には路地状部分の長さが一〇メートル未満の場合は路地状部分の幅員は二メートル以上でなければならないことなどを考慮し、昭和四一年一二月一二日変更計画を第二工区土地区画整理審議会に諮問し、その同意を得たうえ、昭和四二年一月二〇日原仮換地指定処分を取り消し、本件仮換地指定処分をしたこと

以上の事実を認めることができる。<証拠省略>のうち右認定に反する部分は信用することができない。

二  本件換地処分が手続上違法であるかどうかについて

原告は、本件土地区画整理事業においては被告が土地区画整理法(以下、「法」と略称する。)九八条一項後段の仮換地指定処分をすべきであるのに同項前段の仮換地指定処分をしたことがひいては本件換地処分を手続的に違法とさせる旨主張しているので、判断する。

1  法九八条一項は、仮換地を指定することができる場合として、「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」(以下、この場合になされる仮換地指定処分を「前段の仮換地指定処分」という。)と「換地計画に基づき換地処分を行うため必要がある場合」(以下、この場合になされる仮換地指定処分を「後段の仮換地指定処分」という。)とを規定している。

右規定の文言及び法が前段と後段の仮換地指定処分を区別している趣旨に照らすと、前段の仮換地指定処分は、土地の区画形質の変更又は公共施設の新設若しくは変更の工事をするために一時従前の土地の使用収益を停止させ、その代りに右土地に照応する他の土地を仮に使用収益させる処分であつて、すなわち、この処分の目的は専ら工事の円滑な施行を図ることであり、指定された仮換地は後段の場合に指定されるそれとは異なり将来被指定者の換地となることが予定されていないこと、後段の仮換地指定処分は、換地計画がすでに定められているものの工事が完了していないために換地処分をすることができない(法一〇三条二項)が、工事の円滑な進渉を図ると共に関係権利者の権利関係の可及的速やかな安定を図る目的で将来換地となることが予定されている土地を指定して仮に使用収益させる処分であること、したがつて、前段の仮換地指定処分をするためには必ずしも換地計画を定める必要はないが、後段の仮換地指定処分をするためには必ず換地計画を定める心要があることと解するのが相当である。

右のとおり、後段の仮換地指定処分をするためには換地計画を定めなければならないが、換地計画を定めるにはまず換地計画を作成してこれを二週間公衆の縦覧に供しなければならず(法八八条二項)、利害関係者は縦覧期間内に施行者に意見を提出することができる(法八八条三項)。したがつて、法が後段の仮換地指定処分をするには換地計画を定めなければならないと規定している趣旨は、仮換地指定処分が行われる前に利害関係者にいかなる仮換地が指定されるかを知らしめてそれについての意見提出の機会を保障し、もつて利害関係者の意見が換地計画の内容に反映されうるようにする趣旨であると解される。

そうすると、後段の仮換地指定処分をなすべき場合において換地計画を定めなかつた場合には、その仮換地指定処分は公正な手続を欠き違法であると解すべきである。なおこの点に関し、被告は、仮換地指定処分をするに際し換地計画を定めなくとも、換地処分をする際には換地計画を定めなければならずその際に利害関係者は意見を提出することができるのであるから、仮換地指定処分をするに際して換地計画を定める場合に比し利害関係者に実質的な不利益を与えるものではない旨主張しているので、付言する。土地区画整理事業においては、一旦仮換地指定処分がなされるとその後は機械的に事業が進められ、換地処分がなされるまでには建物等の除却や移転等の工事、道路や駅前広場等の公共施設の新設又は変更の工事が完了してしまうため、換地処分をするに際し換地計画を作成してこれを公衆の縦覧に供して利害関係者に意見提出の機会を与えても、清算金以外に関しては利害関係者の意見を採用することは著しく困難となる場合が多い。なぜなら利害関係者の意見を採用しようとすれば換地計画の内容を変更して工事をやり直す必要が生ずるが、これは事実上不可能ないしは著しく困難となる場合が多いからである。したがつて、被告の右主張は当然には採用できない。

2  そこで、本件土地区画整理事業においてはいずれの仮換地指定処分をなすべきであつたかにつき検討する。

前記の<証拠省略>によれば、

(1)  第二工区の土地区画整理事業の実施計画の概要は、同工区内にある国鉄線熊谷駅前広場一、五〇〇平方メートルを五、一〇〇平方メートルに拡張し、街路は駅前通り一八メートルを二五メートルに、市役所通り一一メートルを三六メートルに、弥生町通り六・五ないし一一メートルを一一ないし一七メートルに拡幅整備し、施行区域内の幅員一一メートル以上の街路はすべて完全舗装を実施し、あわせて街廓の整備及び各街廓周辺の公道の造成、整備等を行い、もつて近代的な都市を造成して公共の福祉の増進を図るものであること(以上の事実は当事者間に争いがない。)

(2)  本件従前の土地が存在する第二工区の第五五の二街廓においては、計画道路一〇〇号、二〇四号、二〇五号各線が新設され、従前から存在した一一一号線がその北側に拡幅移動されることになつたこと、そして一〇〇号線道路は一二五番一一、一六七番の各土地の一部を、二〇四号線道路は一二五番七、同番八、同番九、同番一一、同番一二、一六七番の各土地の一部を、二〇五号線道路は一二五番七、同番一五、同番一六、同番一七の各土地の一部をそれぞれ通過することになつていたため、右の各土地は直接右の各道路の新設工事の対象となつたこと、これに対し本件従前の土地には右の各道路は通過しておらず、したがつて、本件従前の土地は直接右工事の対象にはならなかつたこと

(3)  本件従前の土地及び近隣の土地に対してなされた仮換地指定処分及び換地処分の内容は別紙一覧表のとおりであること(右の事実は当事者間に争いがない。)、右の一覧表によれば、被告は直接道路工事の対象になつた土地のみでなく工事の対象にならなかつた土地に対しても仮換地を指定しており、指定された仮換地の位置、形状、面積をみると、後に定められた換地のそれと全く同じであること、第五五の二街廓とほぼ同じ時期に仮換地が指定された第五五の一、第五七の一、二街廓についても仮換地の位置、形状、面積は後に定められた換地のそれと同一又はほぼ同一であること

以上の事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、なるほど本件土地区画整理事業においては駅前広場や道路という公共施設の新設又は変更の工事がなされているが、仮換地指定処分は、これらの工事をするために一時従前の土地の使用収益を停止させその代りに右土地に照応する他の土地を仮に使用収益させるためになされたものではなく、将来換地として定められるべきことを予定して仮換地を指定したものであることが認められる。してみると、本件の土地区画整理事業においては後段の仮換地指定処分をなすべきであつたといえる。

3(一)  ところが、被告は本件土地区画整理事業においては換地計画を定めないで仮換地指定処分をしたこと、原告に対する原仮換地指定処分及び本件仮換地指定処分もそうであることは当事者間に争いがない。

また、被告が仮換地指定処分をなすに当つて昭和三六年頃行つた説明会についてみると、その説明の方法は<証拠省略>の図面を拡大したもの(個々の仮換地計画については記入のないもの)のみによつて説明したこと、そのためその説明会当時においては関係者は具体的にどのような仮換地を指定されるかについては知らされておらず、仮換地指定処分によつて初めて具体的に知らされたものであることは当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告には原仮換地指定処分がなされる前にいかなる仮換地を指定されるかが知らされず、しかも意見提出の機会も与えられなかつたことが認められるので、原仮換地指定処分は実質的には、前記の公正な手続を欠き違法であるとの非難を免れない。

(二)  そこで、更に検討すると、前記一(4)において認定した如く、被告は原告の陳情に基づきその意見を一部採用して昭和四二年一月二〇日原仮換地指定処分を取り消し、本件仮換地指定処分をしたものである。そうすると、被告は本件仮換地指定処分をなすに際して換地計画を定めなかつたけれども、右事実によれば、法が後段の仮換地指定処分をなすに当つて換地計画を定めるべきことを要求している趣旨が原告においてはある程度満たされたことが認められるので、本件仮換地指定処分には違法として取り消さなければならない程の瑕疵は存しないものと解せられる。

(三)  なお、被告は昭和四八年五月一日から同月一四日まで換地計画を公報の縦覧に供したうえ、同年六月二二日本件仮換地と全く同一の区画地積を換地と定める本件仮換地処分をしたことは当事者間に争いのないところである。<証拠省略>によると、換地計画の認可は同年六月八日に受けたことが明らかである。)

4  以上のとおりであるから本件換地処分が違法であるとする原告の主張は採用し難い。

(三) 本件換地処分には照応の原則に反する違法があるかどうかについて

原告は、本件換地処分には、本件換地が本件従前の土地に照応せず、かつ、照応の度合いが近隣の土地のそれに比較して公平を欠く違法があると主張しているので、判断する。

1  仮換地指定当時の本件従前の土地及び近隣の土地の状況

本件換地処分が照応の原則に反するか否かを判断する場合、原則として本件土地区画整理事業開始の時における本件従前の土地及び近隣の土地の状況を基準にするべきであるが、本件従前の土地及び近隣の土地は本件土地区画整理事業開始後昭和三七年五月に仮換地が指定されるまでの間右事業の実施に伴う変化があつたことは本件証拠上認めることができないので、本件においては仮換地が指定された当時の本件従前の土地及び近隣の土地の状況を基準にすることができる。

まず、被告が仮換地を指定した昭和三七年当時の本件従前の土地及び近隣の土地の位置、形状が別紙図面(一)のとおりであることは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠省略>を総合すると、

(1)  昭和二六年分筆前の一二五番一の土地は元松本真平の所有であつたが、昭和三七年当時までに同番一と、同番六から同番一七番までに分筆されていたこと

(2)  昭和二四年頃右分筆前の一二五番一の土地には計画道路一〇〇号線及び二〇五号線が設置される予定になつており、松本真平はその頃熊谷市の担当職員の説明により右のことを了知し、右の一〇〇号線の予定位置に東西に走る幅六メートル長さ約八〇メートルの敷地を、二〇五号線の予定位置には南北に走る幅二メートル長さ約四〇メートルの敷地を通路として開放していたものであること

(3)  右の二〇五号線予定地の通路は従前から存する熊谷駅前へ通ずる一一一号線道路へ出るために付近の住民が通行していたこと

一〇〇号線予定地の通路はその開放当初は東側の突きあたりに水路があつて柵が設置されていたため、それから先(国鉄熊谷駅構内)は行き止まりの状熊であつたが、一二五番一四の土地で自転車預り業をしていた鎌倉幸男が昭和二八年頃原告らと共に柵の設置者である高崎鉄道管理局へ出向き、熊谷駅へ通ずる部分の除柵方を陳情し、その結果柵の代りに門が設置され、午前五時から午後一〇までの間は主に駅への通勤者が自由に通行できるようになつたこと、その後通勤者だけでなく一般の人も通れるようにしてくれとの要請があつたため、通勤者以外の人も自由に通行できるようになつたこと

(4)  そこで、仮換地が指定された昭和三七年当時の本件従前の土地及び近隣の土地をみると、一二五番八、同番九、同番一〇、一六七番の各土地は一一一号線道路に、一二五番七、同番一六の各土地は一一一号線道路及び二〇五号線予定地の通路に、一二五番一一、同番一二の各土地は一〇〇号線予定地の通路に、一二五番一七の土地は二〇五号線予定地の通路に、一二五番一五の土地は一〇〇号線及び二〇五号線予定地の通路にそれぞれ接していたこと、これに対して本件従前の土地である一二五番六の土地はいずれの通路にも接していなかつたこと

(5)  原告は本件従前の土地において化粧品や美容器具の卸売り及び小売り業を営んでいたが、昭和三七年頃は南側隣接地が空地であつたため、一〇〇号線予定地の通路に至るためこの隣接土地を通行していたこと、この隣接土地は、原告の他、一二五番一二の土地の賃借人久保田いね、一二五番一(前記による分筆後のもの。以下これに同じ。)の一部の土地(本件従前の土地の西側の土地)の賃借人上杉某が通行していたこと、しかし一二五番一の土地の所有者松本真平は右の南側隣接地を通路として開放することはもちろん原告に対して貸したこともないこと

以上の事実を認めることができる。<証拠省略>のうち右認定に反する部分は信用することができない。

右認定の事実によれば、昭和三七年当時、一〇〇号線及び二〇五号線予定地の通路はいずれも公衆の自由に通行しうる通路であつたので公路といえること、これに対して南側隣接地は一〇〇号線予定地の通路の延長として公衆が自由に通行しうる道路でないから公路とはいえないこと、したがつて、本件従前の土地を除く近隣の土地はいずれも公路に接しているのに対し、本件従前の土地は袋地に該当するものといわれなけばならない。

2  本件従前の土地及び近隣の土地に対する換地処分について

本件従前の土地及びその近隣の土地に対する換地処分の内容が別紙一覧表のとおりであることは前記のとおりであり、換地の位置、形状が概略別紙図面(二)のとおりであることは当事者間に争いがない。

ところで、法八九条一項は、換地計画において換地を定める場合においては換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めるべきことを規定している。

(一)  そこでまず、本件換地が本件従前の土地に照応しているかどうかにつき検討する。

本件換地は本件従前の土地と比較して、まず位置はほぼ同じであり、したがつて土質、水利、環境も同じであること、面積は減歩率が〇、〇四パーセントであるからほとんど同じであること、更に本件従前の土地が矩形であつたのが本件換地では旗竿状になつたものの、前記認定のとおり本件従前の土地が袋地であり、しかも、原告が南側隣接地を事実上使用していたにすぎなかつたのが、本件換地では一〇〇号線道路に二メートル接することになり、そのため建築基準法、埼玉県建築基準法施行条例に適合することになつてその利用度が増加したこと、その他清算金として一二万七六〇七円を徴収されることなどを総合考慮すると、本件換地は本件従前の土地と照応していると認めることができる。

(二)  次に、本件換地が照応の程度において近隣の土地と比較して公平に反するか否かにつき検討する。

本件従前の土地が袋地であるのに対して近隣の土地はいずれも公路に面した土地であることは前記認定のとおりであること、減歩率は本件換地のそれが〇・〇四パーセントであつて近隣の土地に対する換地のそれに比して著しく少ないこと、その他本件換地及び近隣の土地に対する換地についてはその換地処分によつて得た利益に相当する減歩をしたり清算金を徴収又は交付したりすることによつて実質的な公平を図つていることなどを考慮すると、本件換地はその照応の程度が近隣の土地のそれに比較して公平に反することはない。

以上(一)、(二)の如く、本件換地処分には照応の原則に反する違法は認められない。

四  本件換地処分には土地区画整理の目的に反する違法があるか否かについて

本件換地は、本件従前の土地が袋地であり、しかも、原告がその南側隣接地を事実上通行していたにすぎなかつたのが、一〇〇号線道路に二メートル接するようになり、その利用度が増加したことは前記のとおりであり、したがつて、原告が富田政雄と通行問題で紛争を生ずるおそれはなくなつたといえる。

しかし他方、<証拠省略>によれば、本件換地付近は商業地域に指定されており、本件換地は、その東側には太田保次郎の四階建ての建物、その西側には富田政雄の三階建ての建物、その北側には秋山某の三階建ての建物、その南側には富田政雄の車庫にそれぞれ囲まれていること、そのため日照、通風が相当制限されていることが認められる。本件換地が右のように日照、通風に恵まれないのは本件換地が旗竿状の土地であることに原因があることは明らかであり、したがつて、本件換地処分は、健全な市街地の造成を図り公共の福祉の増進に資するという土地区画整理の目的からすると、妥当な処分とはいえない。しかしながら、南側にある富田政雄の車庫は屋根と両端に木枠がある程度の簡易な建物で高さは一階建てのそれと同じくらいであるため、本件換地の南側はそれ程塞がれていないこと、しかも、本件換地付近は商業地域に指定されているのである程度の日照、通風の不十分さはやむをえないこと、その他前記の如く本件換地が従前の土地に比して利用度が増進していることなどを考慮すると、本件換地処分は妥当な処分とはいえないが、取り消さなければならない程の瑕疵は認められない。

五  結論

以上説示した如く、原告の本訴請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野本三千雄 石塚章夫 今井理基夫)

一覧表、図面(一)、図面(二)<省略>

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